鍼灸は、およそ四千年前に中国で生まれて医学として発展したと言われています。まさに中国四千年の歴史が生んだ人類の知恵といえるでしょう。
肩甲骨のこり:目次
鍼灸誕生の歴史(東洋医学は中医学から)
鍼灸は、天才が突然産み出したものではありません。人類は、火を使い始めることで、あらゆる進化が始まりました。そして、煮炊きをし焚火をしているうちに、火で身体を暖めると病気やケガが治ったり疲れが取れることに気付きました。
身体を暖めることが健康に良いことは、科学で証明するまでもないことなのでしょう。冷えは万病の元という言葉がありますが、鍼灸・サウナ・岩盤浴・温めた食べ物や飲み物など、熱は身体を健康にしエネルギーを与えてくれます。
お灸の誕生
火を使って暮らす中で、火を使って消毒すること・傷を焼いて血を止めること・火を使って身体を温めることの三つの治療を自然発生的に行ったと想像できます。この火を使って身体を温めることがお灸のはじまり。
鍼とマッサージの誕生
古代の人は、怪我や病気・体調不良のときに、身体を揉んだり・押したりして手当を行っていました。現代でも使う「手当」という言葉自体、手を当てるですから、痛いところ、悪いところに手を当てて治療をするというのは本能的なことだったのでしょう。
そのうち、手や足だけでなく、道具を使って指圧することが始まり、さらに、特定の個所を刺激すると特に効果が大きく、症状が改善することを発見していったのです。これが「ツボ」の発見で、ツボと経絡が経験を積んでいくことで分かってきたのです。
肩こりや腰痛の個所を軽く揉んだり撫でてもらうだけでも気持ちいいですね。犬や猫などペットマッサージを行うお店も出てきました。
医療器具としての鍼
原始的な鍼は、骨や竹などで出来ていました。漫画「ジョジョの奇妙な冒険」には、人間を吸血鬼に変身させる骨針付の石仮面が登場します。
1963年、中国北部の新石器時代の遺跡からある石が発見されました。片側はナイフのような形で、腫れものやおできを切開でき、もう一方は、鍼のようにとがっていてツボを刺激できるようになっています。
1968年、中国河北省で、中山王劉勝の墓が発見され、医療器具と、四本の金の鍼と五本の銀の鍼が発見されました。また、同時に発見された製薬用銅盆には「医工」の文字があった。
■定市満城県、満城漢墓の位置
この劉勝の子孫が三国志で有名な劉備玄徳です。劉備の登場する三国志の中では、名医「華陀」が登場し、麻沸散という麻酔を使って手術を行います。さらに、魏を建国した曹操の頭痛を鍼で治すシーンも登場してきます。
現代でも中国で鍼を製造している華陀鍼という会社があります。
■三国志の英雄「関羽」像
中国鍼灸(中医学)の歴史
唐時代(618年~907年)
遣唐使で有名な唐時代には、医療行政を行う「太医署」が設置され、鍼灸は独立した科として専門医が誕生していった。唐時代中期には、灸やツボが大きく発展していき、7世紀の中ごろには、「千金方」を孫思邈氏が書き鍼灸やツボへの記述は現代にも生かされています。
宋時代~元時代
木版印刷術の発明によって文献が大量に発行され、鍼灸においても多くの医学書が出された時代です。
明時代
奇経八脈(臓腑にはつながっていないが、気や血の調節を行い、脳や生殖器の働きに深くかかわる8つの経絡の総称)の考えが重視されて、大きく改革が行われた時代です。
1601年には、楊継州が、「鍼灸大成」を著し、その名の通り鍼灸額の集大成として高く評価されています。
清時代(1368~1871)
西洋医学の輸入、日本からの漢方医学の逆輸入と東洋医学(中医学)や鍼灸にとっては冬の時代です。
ここは、現代の日本と非常に似ています。
明治維新により西洋文明に触れた日本は、脱亜入欧とばかりに、旧来の日本文化や学問を捨て去り、西洋文化や学問を取り入れます。
急速な西洋化のためには、取捨選択をしている暇はなく、古いものは全て捨て西洋からの新しい物を全面的に取り入れる方法を選んだことで鍼灸や東洋医学が評価されなかった時期です。
中華人民共和国
1956年以降、全国に中医学系医科大学が相次いで設立され、鍼灸学が国家事業として行われるようになり、近年では西洋医学を取り入れる統合医療の考え方で起きています。
著名な古典医書
黄帝内経、神農本草経、傷寒論、難経、鍼灸甲乙経
世界と日本の鍼灸
鍼灸および中医学は韓国・日本はもちろんシルクロードを経由して中東・欧州の医療にも影響を与えています。
現在でも、アメリカ・欧州で鍼灸の研究や治療が行われており、1972年には、WHOが鍼灸を伝統医学の一つとして正式に認め1980年に43の疾患を鍼灸治療の適応として認めています。
日本では、残念ながら、鍼灸は健康保険が適用されにくい状況が続いています。もっとも、民間においては鍼灸院および養成学校の多さからも分かる通り、そのニーズが認められています。
また、自治体によっては高齢者向けに鍼灸治療院への補助を出しているところも多い。
鍼灸は江戸時代に日本独自の発展
日本で鍼灸が広く普及し独自の発展をしたのは江戸時代に入ってから。「打鍼術」、「管鍼術」の技術は有名で、細く柔らかい鍼を簡単に刺すことを可能にする技術として現代においても広く用いられ、日本式の鍼治療(和鍼)として知られています。
この「管鍼術」は全盲の鍼灸師杉山和一氏が考えたといわれます。細い鍼で痛みを生じないように治療します。